プレハブの皮膚
2021
インスタレーション / ミクストメディア
サイズ可変
ステートメント
インターネット、SNSの発達、そしてパンデミックによるオンライン化。
パンデミックより前から、テクノロジーによる身体感覚の変化は始まっていました。私たちはディスプレイを入り口にして、テクノロジーの光の中で身体を組みなおします。生物としてのなま臭さを忌避した先、カスタマイズされた肉体と喋る世界では、相手の肉体を飛び越え、アップデートされない記憶のみが不健康に存在感を増しています。
水が容れ物の形に沿うように、肉体と精神は繋がっています。ならば、肉体を選べるようになった我々の中身もきっと変質します。
電気信号でできた肉体をこの世界に引っ張り出せば、そこで新たな対話が始まるでしょう。その線は肉の繊維であり、その光は変わらず在るはずの思考です。
これは、特異な時代における、私たちの肖像です。
当時のメモより
造形の着想は、地元:群馬県高崎市に建っている、「白衣観音」と呼ばれる大きな観音立像です。 小高い山の頂上に立つ真っ白な観音は、故郷の象徴である一方で話したことのない隣人のようでもありました。
地元を離れて数年後パンデミックが起こり、実家への足が遠のく代わりにインターネットでのやりとりが増えました。 しかし、手のひらのモニターに送られてくるメッセージは、その向こうに本物の肉体がある証明になりうるでしょうか? 両親には一年以上会っていません。きっと私の記憶よりも老いているでしょう。高校生になった弟は別人のように大きくなっているはずですが、私のなかでは未だに少年のままです。相手の
肉体を飛び越え、アップデートされない記憶のみが不健康に存在感を増しています。
今我々が「相手」としてメッセージを送っているものは、我々の記憶を存在の根拠としています。生臭さを持つ人間であるがゆえ、電気信号の向こうの実在を確かめるには難しい時代になってしまいました。
生きている人間の姿が揺らいでいく一方で、かつての観音像だけがその姿を保っています。 特異な時代においてもなお私の原風景に在り続ける姿を、ここに展示したいと思います。
掲載媒体
・映像学科 渡邉実莉《プレハブの皮膚》 令和2年度 武蔵野美術大学 卒業・修了制作
優秀作品展 / 武蔵野美術大学 美術館・図書館 Musashino Art University M&L / YouTube
・2022年度 武蔵野美術大学映像学科 入学案内
・2021アーティストトーク 渡邉実莉 編 / msb!チャンネル / youtube
・美大で映像をつくる・まなぶ 【TRANSITION】/ 武蔵野美術大学 映像学科 / youtube
・【卒業制作、領域の行き来】シャルル教授(メディアアート)×小口教授(ドラマ)
/ 武蔵野美術大学 映像学科 / youtube 8:58-